起きやすい理由と放置リスク
起きやすい理由
- ・開口部特有の複雑な取り合い:水下・側面・水上で納まりが全て異なり、張り順・重ね方向の間違いが起こりやすい。
- ・二次防水の要(ルーフィング):立上げ不足・未張り上げが最多要因。現場手直しでシーリング依存に陥ると再発。
- ・緩勾配や金属屋根:水滞留・結露が起きやすく、微小欠陥が顕在化しやすい。
放置リスク
- ・野地板/垂木の腐朽、金物の腐食、断熱材の機能喪失、カビ・白蟻リスクの増大。被害は面で広がる前に止める。
症状チェック:シミ位置・結露判別・気象条件の相関
ズレに注意:浸入点 ≠ 室内シミ直上。枠・野地・垂木を伝って水平に1m以上ずれることも。
室内症状の見方
- ・枠下部/側面の滴下、周縁の雨筋、カビ臭。
- ・発生時刻と降雨強度/風向を記録(タイムラグが診断鍵)。
結露との見分け(要約)
- ・雨漏り:降雨と同期。隙間/取り合いから局所。
- ・結露:降雨非同期。ガラス・金属枠の広範。サーモで低温部を確認。
タイムラグ目安
- ・~30分:一次防水(板金/フラッシング)破断の疑い大。
- ・1–2時間:二次防水(ルーフィング)重ね/立上げ/貫通部不良。
- ・強風時のみ:逆水で重ね不足・立上り越えが露呈。
典型的な施工不良(ワースト5)
-
1. ルーフィング立上げ不足/未張り上げ(最頻)
天窓枠へ150mm以上(可能なら250mm)張り上げ、周辺防水層と連続させるのが原則。 -
2. 捨て板金(フラッシング)の不連続
重ね方向の誤り・寸法不足・差し込み深さ不足で逆流。 -
3. 防水テープの幅不足・圧着不足
75mm以上の両面ブチル推奨。ヘラ/ローラーで圧着、段差の浮きをゼロに。 -
4. シーリング依存
シールは補助止水。排水の逃げ道を塞ぐ「閉じ込め」は再発の元。 -
5. 釘/ビスの禁水域貫通
水線内・コーナー近傍の貫通NG。必要部はパッキン+テープで止水。
屋根材別の要注意ポイント
スレート
釘の貫通部が直リスク。専用水切り役物を使い、現場板金の“勘納まり”を避ける。
金属(立平/横葺き)
緩勾配→滞留/逆水。熱伸縮で取り合いにストレス。透湿ルーフィング+通気層を計画。
瓦
瓦下は元々水が回る前提。フラッシング → ルーフィング上へ確実に排水できる連続性が要。
調査フロー(現場で迷わない最短手順)
- 1. 問診:発生時刻、風向、雨量、タイムラグ、既往補修。
- 2. 目視:室内→屋根上→小屋裏。写真・動画で因果の線を追う。
- 3. 散水試験:水下→側面→水上の順で段階散水。室内観察を同時実施。
- 4. 補助機器:サーモ(濡れ検出)、内視鏡(層間確認)、含水率計(構造健全度)。
工法選定:部分補修/本体交換/開口廃止
| 工法 | こう決める | 長所 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 部分補修 | ルーフィング/板金の局所不良、下地健全 | 低コスト・短工期 | 隠れ腐朽の見落とし注意 |
| 天窓交換 | 本体劣化・20年超・気密断熱更新 | 性能刷新・再発低減 | 納まり厳守、費用増 |
| 開口廃止 | リスクゼロ化希望・全面改修時 | 物理的にリスク解消 | 採光/意匠の喪失 |
判断キー:下地腐朽の有無、勾配/屋根材、ライフサイクル(今後20年を見据える)。
正しい納まり(再発防止ディテール)
ルーフィング(必須条件)
- ・張り順:水下→側面→水上。常に上が下を覆う。
- ・立上げ:枠へ150mm以上(推奨250mm)。
- ・谷/角部:75mm以上のブチル両面で入隅を補強、圧着徹底。
- ・重ね代:水平100–200mm/垂直200mm以上。
- ・禁水域:水線内の貫通禁止。必要箇所はパッキン+テープ。
フラッシング(板金)
- ・メーカー純正を基本。捨て板は連続・重ね方向は流れ順。
- ・仕上げシールに頼らない(排水経路を殺さない)。
通気・結露
- 金属・緩勾配は通気層確保(軒→棟)+場合により透湿ルーフィング。
“使わない”シーリング
- 逃げ道を塞ぐ箇所には打たない。ビス頭等の点に限定。
応急処置(恒久修理までのつなぎ)
- ・安全最優先:荒天・無装備で屋根に上らない。
- ・一時止水:枠取り合い上流にブチル系テープを面で貼る(圧着必須)。
- ・迂回養生:#3000ブルーシートで天窓全体を覆い、水を水下へ誘導。ロープ/土のうで固定。
- ・NG:全面シールで出口を塞ぐ、局所にだけテープを点貼り。
費用・工期レンジ(目安)
| 項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 散水試験 | 2~6万円 | 原因特定の要 |
| 足場 | 12~25万円/棟 | 2階以上は基本必要 |
| 部分補修 | 10~30万円 | 張替え・板金調整 |
| 天窓交換+周辺改修 | 30~70万円 | 性能更新含む |
| 開口廃止+屋根復旧 | 40~80万円 | 屋根材・下地で変動 |
| 下地補修 | 5,000~10,000円/㎡ | 腐朽範囲で増 |
工期の目安:部分3~5日/交換・廃止は規模次第+乾燥養生で延長あり。
見積・業者選び
質問チェックリスト
- 1. 散水試験を実施し、報告書を出しますか?
- 2. メーカー要領に準拠した納まり図を提示できますか?
- 3. 立上げ寸法(150mm以上)・重ね代・張り順を明記しますか?
- 4. 下地補修単価・条件は?(開けて判明時の取り決め)
- 5. 完了時に通水試験(10–20分)を実施しますか?
- 6. 工程写真(見えなくなる層)を全カット提出しますか?
見積の必須明細
- ・ルーフィング製品名/グレード、面積、立上げ・重ね寸法
- ・フラッシング:材質・板厚・純正/現場加工
- ・下地補修数量(㎡/枚数)、防腐処理
- ・通気/換気の確保方法
- ・足場・産廃の別計上、保証年数と範囲
事例で学ぶ
Case A:立上げ不足
- ・症状:長雨で天窓直下にシミ。
- ・原因:枠立上げ150mm未満/未張り上げ。
- ・是正:野地補修+250mm立上げ、純正フラッシングで再納まり。
- ・教訓:天窓周りは二次防水の連続性が命。
Case B:防水テープ処理不良
- ・症状:片流れでサッシ上枠から出水。
- ・原因:幅不足(50mm)・圧着不良で通気層へ水回り。
- ・是正:75mm以上の両面ブチルで再施工、圧着徹底。
- ・教訓:テープは幅×圧着で性能が決まる。
FAQ
Q1. 風災で保険は使える?
A. 台風・飛来物など突発破損が原因なら適用余地あり。経年/施工不良は不可。写真・報告書を整備。
Q2. 新築10年未満でも漏れる?
A. 施工不良なら起こり得る。瑕疵担保の射程(雨水侵入部位)を確認。
Q3. 交換 or 廃止の判断は?
A. 本体劣化/20年超は交換、リスクゼロ化志向なら廃止。いずれも納まり厳守が前提。
Q4. シーリングを打ち直せば止まる?
A. 一時的に見えても根治しない。排水を塞ぎ、内部滞留→腐朽を招く恐れ。
Q5. 散水試験は必要?
A. 必要。原因誤認→二度手間/高額再工事の回避コストと考える。
再発防止チェックリスト
設計・材料
- ☐ 天窓は純正フラッシングを採用
- ☐ ルーフィングは改質アス等の高耐久・釘穴シール性品
- ☐ 緩勾配/金属では通気層と必要に応じ透湿を併用
二次防水(必須寸法)
- ☐ 立上げ150mm以上(可能なら250mm)
- ☐ 張り順=水下→側面→水上/重ね=水平100–200mm
- ☐ コーナー補強 = 両面ブチル75mm以上 + 圧着
- ☐ 禁水域の貫通禁止/やむなく貫通はパッキン+テープ
施工管理
- ☐ 施工前中後の全写真(見えなくなる層)
- ☐ 完了後通水試験10–20分で漏れゼロ確認
- ☐ 取扱説明(点検周期・シールの限界)
維持管理
- ☐ 10–15年で点検・メンテ計画
- ☐ 室内結露の是正(換気・断熱)


















